医師の節税対策の方法とは?会社設立や不動産投資が選択肢に

医師の節税対策の方法とは?会社設立や不動産投資が選択肢に

医師は年収の高く、多くの税金を納めているため、特に勤務医は年収の割に手元に残るお金が少ないと感じることが多いようです。節税のために法人化という方法が採られることが多いですが、勤務医も会社設立によって節税を図ることは可能なのでしょうか。日本の所得税制度をもとに、医師の節税方法について、勤務医のケースを中心にみていきましょう。

目次

医師に節税対策が必要な理由

医師は年収が高い職業のひとつですが、年収が増加するにつれて税負担も増大していきます。なぜ、医師は節税対策が必要とされるのか、日本の所得税制度からみていきましょう。

医師に節税対策が必要な理由

日本の所得税の制度とは

日本の所得税は超過累進課税制度がとられ、所得税率は5%から45%までの7段階に分けられており、所得が増えるほど税率が上がります。195万円までの所得に対する税率は5%ですが、195万円を超えて330万円以下の部分は10%、330万円を超えて695万円以下の部分は20%といったように税率が上がっていき、4000万円を超えると45%もの税率になります。
単純累進課税は、単純に所得に応じた税金を掛けますが、超過累進課税の場合、所得の区分ごとに税率を掛けていくものです。たとえば、所得が500万円の人の場合、195万円までの部分は5%、195万円を超えて330万円以下の部分は10%、330万円を超えて500万円までの部分は20%になります。

≪所得500万円の場合の所得税の計算式≫
195万円×5%+(330万円-195万円)×10%+(500万円-330万円)×20%=57万2500円⇒57万2,000円
実際の所得税の計算では、1,000円未満は切り捨てになりますので、57万2,000円になります。
また、所得税は給与収入に対してそのまま課税されるわけではありません。所得は収入から各種所得控除が引かれたもので、給与収入から給与所得控除を引いたものが給与所得です。所得税は給与所得から、各種所得控除を引いた後の金額に課税されます。

所得税は累進課税なので医師は高額な税負担

日本の所得税制度は超過累進課税のため、単純に所得に応じた税率を掛けるわけではないのですが、900万円を超えて1,800万円以下の部分に対する所得税の税率で33%にもなります。所得と所得税の関係だけで単純に考えた場合、900万円から1200万円に所得が上がり、所得が300万円増えても、99万円は所得税の支払いが生じるため、実質的には201万円しか収入は増えないことになります。
医師の平均年収は、厚生労働省の「第20回医療経済実態調査医療機関等調査」によると、2014年度の水準で医療法人が経営する民間病院の勤務医は約1,544万円、主に開業医に当たる医療法人が経営する診療所の院長は2,914万円です。
所得税の税率は先述のように、900万円を超えて1,800万円以下の部分は33%ですが、1,800万円を超えて4,000万円以下の部分は40%になります。医師は年収が高いといわれる職業ですが、多くの所得税を負担しているのです。
第20回医療経済実態調査医療機関等調査

開業医は経費計上が可能

開業は自分の理想とする医療が追求できる、頑張った分だけ収入が増えるといったメリットがあります。さらに、事業用と認められる支出については経費化できることもメリットといえるでしょう。開業医の場合、法人、個人による違いもありますが、勤務医でも発生する支出のうち、交際費や福利厚生費、車両費などが事業用として経費化できる可能性があります。開業医は経費計上によって節税を図ることも可能なのに対して、勤務医はいかにして節税対策を行っていくかがポイントになるのです。

給与所得は所得控除で節税できる?

所得控除には14種類ありますが、勤務医は所得控除を利用して節税を図ることができるのでしょうか。給与収入と給与所得、給与所得控除の関係や各種所得控除制度についてみていきましょう。

給与所得は所得控除で節税できる?

給与収入と給与所得、給与所得控除とは

給与収入金額から給与所得控除額を引いたものが給与所得額であり、給与所得額から所得控除額を引いたものが課税対象所得です。
給与所得控除は、勤務に必要な経費を一律で収入に応じて控除する性格のものです。個人事業主の事業所得の必要経費は実費で計算するのと、大きな違いがあります。給与所得控除は、業種や職種、正社員やアルバイト、パートといった雇用形態を問わず、収入だけを基準に算定されます。自分で用意したスーツを着て仕事に行く人も、ジーンズにTシャツを着て出勤し、勤務先で貸与される制服に着替える人も、給与収入が同じであれば、給与控除は同額です。
給与所得控除も給与収入が上がるとともに、控除される割合が低くなっていきます。給与所得控除は給与収入が180万円以下の場合は収入金額の40%ですが、算出した金額が65万円満たない場合には一律で65万円です。
給与所得控除の速算式は180万円を超えて360万円以下の場合は「収入金額×30%+18万円」ですが、660万円を超1000万円以下の場合は、「収入金額×10%+120万円」となり、収入が増えた分に対して控除される割合は減っていきます。さらに、給与収入が1000万円を超えると、一律で220万円とされているため、収入が増えても多くの税金が課せられることになるのです。勤務医の平均年収が1500万円ほどであることから、医師の多くは給与所得控除の上限額に達し、所得が増えても給与所得控除は増えない状況になっていると推察されます。

特定支出控除を利用できる条件とは

勤務医や会社員などの給与所得者には、給与収入から収入金額に応じて給与所得控除を受けることができますが、業務に対する支出が多い人のために設けられたのが特定支出控除です。
特定支出控除の対象となるのは、通勤費や転勤に伴う引っ越し費用、単身赴任者の帰宅費用、研修費用、資格取得費用です。また、合計で65万円を限度に、業務に関する図書や衣類の購入費用、交際費用も認められます。
ただし、特定支出控除は、勤務先である給与の支払者からの費用の補てんがない場合のみ対象となります。通勤費や引っ越し費用、単身赴任者の帰宅費用、研修費用は勤務先で負担するケースが多いでしょう。さらに特定支出控除を利用するには、給与所得控除の1/2以上の支出があった場合に超えた部分が対象のため、給与所得が1000万円のケースでは110万円を超えた分になります。さらに、勤務先の承認も必要になるため、実際に利用する人は限られています。

主な所得控除とは

多くの人が適用される主な所得控除を挙げていきます。基礎控除は適用の要件がなく、一律で控除されるもので、所得税の基礎控除は38万円です。103万円までは所得税が非課税といわれるのは、給与所得者の場合、基礎控除と給与所得控除の最低額65万円を合わせると103万円になるためです。
厚生年金や健康保険の保険料の社会保険料控除は、実際に支払った額が所得から控除されます。個人で加入する保険を対象にした所得控除には、生命保険控除や地震保険料控除がありますが、それぞれ上限が定められています。生命保険料控除は12万円、地震保険料控除は5万円ですので、節税効果は低いです。

ふるさと納税で人気の寄付金控除とは

一般的な寄付金控除は、国や地方公共団体、学校法人、政党などへの寄付金が所得から控除されるものです。これに対して、ふるさと納税は自治体へ寄附することによって、寄付金から2000円を引いた額が、住民税や所得税から控除されます。寄附をしても所得税や住民税の負担は2000円しか変わらないことから、寄付金でありながらも、ふるさと「納税」と呼ばれているのです。ふるさと納税は収入や各種所得によって、控除されるふるさと納税枠に違いがあります。
ふるさと納税は、多くの自治体が特産物などの返礼品を用意しているため、返礼品を目当てに利用することが多く、思い入れのある自治体に自分のお金が活かされることもメリットです。ふるさと納税は、節税とはまた違った位置づけのものといえるでしょう。

勤務医も法人設立で節税が可能?

開業医は個人事業主で経営しているケースと、法人設立による経営を行っているケースがありますが、勤務医も法人を設立して節税を図ることは可能なのでしょうか。

勤務医も法人設立で節税が可能?

勤務医が法人を設立するメリット

法人を設立して配偶者などの家族を役員にすると、所得の分散が図れることで、節税効果があります。配偶者にほかに収入がない場合には、103万円までは所得税が課税されません。また、課税所得が900万円を超えていると1800万円以下の部分のケースで、所得税と住民税と合わせて43%のもの税率になります。法人税の実効税率は30%を切っているため、高い税率を払っている部分の収入を、個人から法人の収入にまわせれば、節税効果があります。

勤務医が法人の収入にできる条件とは

勤務医が法人を設立した場合、法人の収入にできるものは、医療サービス以外の収入です。病院側に時間的な制約で縛られていないこと、時間や日数に応じて支払われる性質ではないこと、病院の指揮監督下にないことが条件になります。
勤務先である医療機関の収入の一部を法人の収入にまわすには、勤務先の承諾が必要です。さらに、税務署に租税回避行為とみなされないためには、何の業務に対する報酬か明確に説明できることが条件です。

講演や原稿執筆の収入が多ければ法人設立を視野に

勤務先の医療機関の仕事とは別に、医療サービス以外の収入がある場合に、法人の設立を考えるのが現実的といえます。セミナーの講演や原稿執筆の依頼が多い、あるいは自らセミナーの開催や運営を担っている場合は、収入が多ければ、法人設立も視野に入れましょう。
つまり、これまで個人の雑所得として確定申告していた収入を、法人の所得にする形です。ただし、勤務先からの収入の一部を法人の収入にするケースなど、税務署に租税回避行為とみなされると、延滞税や過少申告税、あるいは、最悪の場合には重加算税を課される恐れがあります。スキームに問題がないか、医療関係に強い税理士などの専門家に相談してみましょう。

勤務医の節税は「MS法人設立」という方法もある?

開業医は医療法人とは別にMS法人を設立しているケースがありますが、勤務医もMS法人の設立で節税ができるといわれることがあります。勤務医がMS法人を設立することで節税することは可能なのでしょうか。

勤務医の節税は「MS法人設立」という方法もある?

「MS法人」とは

MS法人とはメディカル・サービス法人のことをいいますが、法的な位置づけのあるものではなく、一般的な会社です。法人形態としては、株式会社や合同会社、NPO法人の形態をとるケースが多いです。MS法人は医療法人ではないため、医療行為をすることはできません。
医療法人がMS法人を設立する場合は、ホームページの作成や運用、医療機器のリース、備品類の管理や販売といった業務をMS法人に移管するケースが多いです。MS法人を設立することで、不動産賃貸業や物品の販売といった、医療サービス以外の営利事業を営むなど、医療法人ではできない分野への事業拡大を行うこともできます。
また、医療法人によるMS法人の設立は節税対策としても行われています。MS法人の役員に、配偶者などの家族をおくことで、所得の分散を図ることが可能です。また、医療法人は配当を行うことができないため、内部留保が溜まりやすく、相続税が高くなりやすいです。MS法人をつくり、収益の一部を法人に移すことで相続税対策ができます。

勤務医の「MS法人」による節税の仕組み

では、勤務医もMS法人の設立によって節税が図れるといわれることがありますが、どのようなスキームによるものなのでしょうか。
よくいわれるのは、MS法人を立ち上げて、これまで勤務先の病院から支払われてきた給与の一部をコンサルティング料として、法人の収入にする方法です。法人の収入にすることで、配偶者に役員収入を支払って所得の分散を図ることや、個人と法人の税率の差で節税ができます。また、支出の一部を経費化することが可能とされます。しかし、このスキームには懸念点が多く残されます。

「MS法人」での節税のハードル

そもそもMS法人は、会社法上は一般的な会社ですので、MS法人ならコンサルティングの実態がなくても、勤務医としての給与の一部を法人の収入にすることが認められるわけではありません。勤務先の病院の収入をMS法人にまわすには承諾が必要であり、実際にコンサルティングを行っている事実も必要です。また、コンサルティング費用に妥当性がなければならず、勤務先の病院の業務では、前述のように独立性も問題になります。勤務先である病院の業務の一部に対する収入を、MS法人が受け取る形にした節税方法は税務署に否認されるリスクが高いです。
一方で勤務先の医療機関以外に対しても、医療コンサルティングや医療訴訟に関する医学的見地からのアドバイス業務などを行っている場合は、MS法人による節税も検討材料になるでしょう。

医師の節税は不動産投資という手も

多くの収入を得ている勤務医でもできる節税方法として、不動産投資が挙げられます。不動産投資にはリスクもありますが、資産形成が図れることもメリットです。

不動産投資の節税の仕組み

不動産投資は多忙な医師にもできる節税対策です。不動産投資の中でも、アパートやマンションなどの収益不動産を購入し、賃料収入からインカムゲインを狙う方法は、長期的に安定した収益を得やすいためおすすめです。
不動産投資は不動産所得を赤字にすることで、給与所得との損益通算により総所得を減らすことで、節税の効果が期待できる投資手段です。不動産投資は、実際のキャッシュフローと税務処理は異なります。
不動産所得は賃料収入から取得時の登記費用や不動産取得税、ローン保証料、火災保険料や固定資産税、修繕費用などを控除できます。ローンの支払額のうち元金返済分は必要経費にはなりませんが、利息部分は経費計上が可能です。ただし、不動産所得が赤字になるときには、土地の購入費用に対する利息部分で必要経費に含められるのは一部になります。
区分所有マンションの場合は、管理費や修繕積立金も必要経費に含むことができます。勤務医は多忙なことから、入居者の募集や毎月の家賃の集金、入居者のトラブルやクレームへの対応などの賃貸管理は不動産管理会社に委託することが一般的です。委託手数料も必要経費に含められます。また、投資物件を確認に行くときや不動産賃貸管理会社との打ち合わせのための交通費、物件が遠方の場合の交通費、賃貸経営に関する本など、不動産投資との関連性が明確なものは必要経費に入れられます。
さらに、賃料収入から控除できるもので大きいのは、減価償却費です。減価償却費は建物部分の購入費用が対象で、法定耐用年数に応じて、国税庁の示す償却率に従って、毎年計上していくことができます。法定耐用年数は鉄筋コンクリート造で47年、木造で22年ですので、新築のマンションを購入した場合は、47年間減価償却費を計上していくことになります。
ローンの多くは元利均等返済になっていますので、投資物件を購入した当初はローンのし払い額に対して利息の割合が多いため、不動産所得が赤字になりやすいです。

不動産投資のリスクとは

不動産投資はミドルリスクミドルリターンの投資手段といわれ、賃料収入によるリターンが期待できる反面、当然ながらリスクもあります。不動産投資の主なリスクは、「空室リスク」と「家賃下落リスク」、「金利上昇リスク」です。
賃貸物件を選ぶとき、多くの人は「○○駅から徒歩○分以内」といったように、立地条件を優先して、家賃の予算や間取りの条件が合う物件を選びます。「空室リスク」を回避するために重要なのは、立地条件なのです。また、内装や設備はリフォームやリノベーションで変えることができますが、立地条件を変えることはできません。都市部であれば、ターミナル駅へのアクセスが便利で、最寄り駅から徒歩10分以内の物件を選ぶと、空室のリスクを抑えられます。また、コンビニやスーパーなどの商業施設、金融機関や病院などの生活利便施設が周辺にあるかどうかも重要なポイントです。
「空室リスク」と「家賃下落リスク」は表裏一体ですので、立地条件は家賃下落リスクにも関わります。新築物件の場合は、新築時は高めの家賃設定でも借り手がつきやすく、「新築プレミアム」といわれています。新築や築浅物件を好む人が多いため、築年数の経過によって家賃は下落しがちです。しかし、立地条件のよい物件は家賃が下がりにくく、適切な時期に修繕を行い、質を維持することでも家賃の下落を防げます。区分所有マンションの場合は管理状態が、資産価値や家賃の維持に大きく影響します。新築物件の場合は管理状態を予測するのは難しいですが、中古物件の購入では管理状態も投資物件を選ぶ際に重視しましょう。
低金利時代が続いていますが、「金利上昇リスク」は金利の変動によって、ローン支払額が増えるリスクです。固定期間の長いローン商品を選ぶと、予期せぬ金利上昇を防ぐことができますが、金利が割高になってしまい、金利の上昇がなかったときに、結果的に不利な選択をしたことになります。そこで、金利上昇に備えて資金を留保し、固定期間が終了して金利が上がるタイミングで、繰り上げ返済を行う方法が考えられます。ただし、繰り上げ返済は、金融機関によって最低額や事務手数料が異なりますので、事前に調べておきましょう。

不動産投資は資産形成が図れることもメリット

不動産投資は賃料収入によるインカムゲインが期待できるだけではなく、資産形成を図れることがメリットです。ローンの支払いが終わった後は、不労所得を生む資産として維持することができます。収入の高い医師は、不動産投資の実績を積んでいくことで、新たな投資物件を買い増しする際にも、金融機関から融資を受けやすいです。
また、不動産投資は相続税対策としても効果があります。現金や株式などの有価証券は時価で評価されるのに対して、不動産として所有することで相続税評価額を下げることができます。土地は路線価などをもとに、実勢価格の8割程度で評価されるケースが多いです。建物は固定資産税評価額が相続税の評価でも用いられますが、建設コストの5割~7割程度の評価です。さらに、賃貸住宅の場合は、土地は貸家建付地として2割程度、建物は貸家として3割程度の評価減を受けられます。小規模宅地等の特例で貸付事業用の宅地等に該当する場合は、5割もの評価減となります。不動産として資産を残すことで、相続税の納税額を減らし、子どもの代に多くの資産を残しやすくなるのです。

勤務医にとって各種所得控除制度による節税は、住宅ローン控除を除くと効果が薄いといえます。また、勤務医の会社設立による節税は、税務署から租税回避とみられるリスクがあるため、スキームを専門家に相談するなど、慎重に進めていく必要があります。不動産投資は医師の節税対策の効果が期待できるうえに、資産形成の手段としても有効です。不動産投資のリスクを理解したうえで、節税対策になるかシミュレーションをしてみましょう。

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執筆者 はな
企業での実務経験を活かし、2013年よりフリーランスのライターに転身。不動産や投資系のメディアを中心に執筆活動を行っています。

執筆者 yui
大学卒業後、メーカーで事務職OLをする傍らインテリアスクールに通い、住宅会社などでインテリアコーディネーターとして勤務。結婚、出産を経て、2012年から住宅・不動産やインテリア関係を中心にライターとして活動しています。