公務員は副業が禁止されていますが、国家公務員の不動産投資は自営にあたる基準が設けられ、許可なくできるケースもあります。ただし、地方公務員の場合には、自治体によるルールの違いに注意が必要です。公務員の不動産投資で、副業の許可が必要な基準や、許可が必要な場合で申請せずに不動産投資をやるリスクなどについて解説していきます。
国家公務員で許可が必要な不動産投資とは
国家公務員は副業が禁止されていますが、一定の規模までは自営とみなされず、許可なく副業ができる仕事もあります。どの程度の規模の不動産投資なら、国家公務員が許可なく副業をすることが可能なのでしょうか。
国家公務員は原則として副業禁止
国家公務員は国家公務員法によって、原則として副業が禁止されています。国家公務員の副業禁止に関して規定しているのは、国家公務員法の第103条と第104条です。第103条で国家公務員の営利企業への就職や自営が禁止され、所轄庁の長の申し出による人事院の許可が得られる場合のみ認められています。第104条では非営利企業で報酬を得て働くことも禁止され、非営利企業の職務を担うには、所轄庁の長と内閣総理大臣の許可が必要です。
また、国家公務員は国家公務員法第99条で「信用失墜行為の禁止」、第100条で「職務上知った秘密の守秘義務」、第101条で「職務専念の義務」という3つの原則が、服務規程として決められています。たとえば、国家公務員が風俗店で働いた場合は副業の禁止に抵触するだけではなく、「信用失墜行為の禁止」にもあたる可能性があります。また、許可なくネットショップを運営して仕事中にも出荷の手配などをしていた場合は、「職務専念の義務」にも抵触するでしょう。
国家公務員ができる副業とは
国家公務員は営利企業への就職のほかに、自営も禁止されていますが、農業と不動産賃貸業、太陽光発電は、人事院規則14-8の第一項関係で自営に該当する一定の規模が決められています。つまり、農業と不動産賃貸業、太陽光発電の売電に限っては、一定の規模までの事業であれば、国家公務員でも許可なく副業として営めるのです。
たとえば、農業や不動産賃貸業は自らの意志で始めるのではなく、先祖代々の田畑を受け継いで、休日に耕作している公務員もいますし、アパートも親から相続して賃貸経営をしているケースが多いです。しかし、自分でアパートを購入して不動産投資として、不動産賃貸業を営む場合も、一定の規模までであれば、同様に副業の許可を得ずにやることができます。
国家公務員が農業や牧畜、酪農、果樹栽培、養鶏などを営む場合、自営に該当するのは大規模で営利を主目的とするケースです。太陽光発電では、太陽光発電システムが10kW以上の出力の場合に自営になります。
国家公務員の不動産投資は「5室10棟未満」は許可が不要
人事院規則では、国家公務員が不動産賃貸業を行う場合に、自営にあたる事業規模については、詳細な規定が設けられています。自営とみなされるのは、一戸建てなど独立家屋の場合は5棟以上、アパートやマンションなど独立的に区画されている場合は10室以上の規模で不動産賃貸業を営んでいるケースです。ただし、それ以下の規模であっても、劇場や映画館、ゴルフ練習場など、娯楽や遊技のための設備があったり、あるいは、旅館やホテルに使用したりする場合には、自営とみなされます。土地の場合は10件以上、駐車場の賃貸では建物が設けられているか、機械設備がある場合、あるいは、駐車場台数が10台以上の場合が自営とされる基準です。また、1年間の賃料収入が500万円以上の場合は、自営と扱われます。
言い換えれば、国家公務員は、「5棟10室未満」で「年間の賃料収入500万円未満」の規模で不動産賃貸業を営む不動産投資は、許可を得ることなくできるのです。ただし、どちらかの基準でも超えると自営とみなされます。たとえば、マンションを4室所有し、月額家賃12万円、年間の賃料収入576万円というケースは、10室未満の基準はクリアしていても、年間の賃料収入が500万円を超えるため、自営に該当します。
また、職務専念の義務に抵触しないように、賃貸管理業務は不動産管理会社に委託するとよいでしょう。
国家公務員が不動産投資で許可を得るための人事院規則
不動産投資は自営にあたる規模であっても、許可を得られれば、国家公務員が副業として営むことができます。人事院規則では、不動産賃貸業と太陽光発電については、事業的な規模で営める許可基準が定められています。
不動産賃貸業で自営が認められる許可基準は3点あります。一つ目は国家公務員としての職務との間で特別な利害関係が生じないこと、さらに、利害関係が生じる恐れもないことです。不動産賃貸業を営むことで、補助金の交付や物件の使用に関する許認可、生産方式や経理などの検査や監査、工事請負契約や物品購入契約などで、利害関係が生じないことが条件になります。二つ目は、入居者の募集や賃料の回収、維持管理を不動産管理会社などに委託して、職務に支障をきたさないことです。ただし、前述のように5室10棟未満の不動産賃貸業で許可を必要としないケースでも、賃貸管理は業者に委託することで、職務専念の義務へ抵触する恐れがなくなります。三つ目は、公正性や公平性の確保に支障を生じさせないことです。
太陽光発電の場合も、10kW以上の事業的な規模で営む場合には、ほぼ同様に許可基準が設けられ、管理業務を業者に委託することが条件になります。そのほかの事業で自営業を営む許可の基準は、相続などによるものが条件になっているのと比べると、不動産賃貸業と太陽光発電は誰でも許可を得られる可能性があることに違いがあります。
地方公務員の不動産投資は許可が必要?
地方公務員も副業は原則として禁止されています。不動産賃貸業などで、自営にあたる規模の基準が国家公務員は設けられていますが、地方公務員ではどのように取り扱われるのでしょうか。
地方公務員も原則として副業禁止
地方公務員も地方公務員法によって、原則として副業が禁止されています。地方公務員法第38条では、地方公務員が営利企業へ就職することや自営を行うことが禁止され、任命権者の許可を得た場合のみ認められています。任命権者とは、都道府県知事や市区町村長などの地方自治体の長、地方議会の議長、教育委員会、消防長などです。
また、地方公務員も「信用失墜行為の禁止」と「職務上知った秘密の守秘義務」、「職務専念の義務」といった服務規程が、地方公務員法で設けられています。副業の内容によっては、副業禁止に抵触するだけではなく、服務規程にも違反することになります。
地方公務員の規定は自治体による
国家公務員は自らが事業を営む場合に、農業と太陽光発電、不動産賃貸業については、自営にあたる規模が人事院規則で定められています。そのため、一定の規模までの農業と太陽光発電、不動産賃貸業は自営にあたらないため、副業の許可は不要です。地方公務員の場合は、不動産賃貸業に関しては、国家公務員に準じていることが多いですが、自治体ごとに独自のルールが決められています。
地方自治体によっては、アパートや駐車場を不特定多数に貸す場合には、規模に関わらず自営にあたり、許可が必要です。あるいは、自営の規模などに特段の基準が設けられていないため、農業や太陽光発電、不動産賃貸業のいずれでも規模を問わず、許可を必要とする自治体もあります。
地方公務員の不動産投資は許可がいる基準を確認
地方公務員が、不動産投資として不動産賃貸業を始めるときには、あらかじめ自治体で設けられているルールを確認することが大切です。公務員の不動産投資に関する情報で、「5棟10室未満」で「賃料収入500万円未満」は、副業の許可は不要と書かれているケースもありますが、該当するのは国家公務員と国家公務員の規定に準じた自治体で働く地方公務員です。自治体によっては、相続によって小規模な農業や不動産賃貸業を営んでいる場合でも、許可が必要なケースもあります。
これまで暗黙の了解として、懲戒処分が行われていなかったとしても、大規模な不動産賃貸業を営む公務員が問題になったことがきっかけで、一斉に調査を行うケースもみられます。副業禁止の規定に触れていれば、懲戒処分の対象となる可能性もあるのです。
副業が原因で公務員の職を失うことになったら本末転倒ですので、地方公務員の場合は自治体のルールを調べましょう。
公務員が許可を得て不動産投資するときの心構え
公務員は副業の許可を得ることができれば、事業的な規模での不動産投資も可能です。どのようなことに気をつけて、不動産投資を行ったらよいのでしょうか。
職務専念
公務員が許可を得て事業的な規模で不動産投資をするときには、先述の3つの原則のうち「職務専念の義務」が問題になりやすいです。国家公務員の場合、「5棟10室以上」の規模で不動産賃貸業を営む場合には、賃貸管理を不動産管理業者に委託することが許可を得る条件になります。賃貸管理を不動産管理会社に任せて、就業時間中は一切不動産投資に関わることはせず、職務に専念することが大切です。不動産管理会社には、勤務時間中には基本的には連絡がとれないことを伝えて、急ぎの要件があるときは昼休みにやり取りをするようにします。どうしても平日の日中に手続きをしなければいけないことが発生した場合には、職務に支障のない日を選んで有給休暇を取得して対応しましょう。
公務員の不動産投資では副業の許可が得られても、無条件で不動産賃貸業が営めるわけではありません。事業の規模が大きくなるほど、不動産管理会社に賃貸管理を委託していても、投資を成功させるためには、目を配る必要性が高まることが考えられます。公務員としての職務に支障のない範囲内で、不動産投資を行いましょう。
副業の話をしない
勤務先で、副業として不動産投資をしていること自体を隠す必要はありませんが、不動産投資の話をすることで、話に尾ひれがついて、根も葉もない噂が立つことが危惧されます。あるいは、実際は勤務中に不動産投資に関わる行為は一切していなかったとしても、昼休みなどに不動産投資の話ばかりをしていては、「勤務中にも不動産賃貸管理会社とやり取りをしているのでは?」と、周囲の人に疑念を持たれやすいです。
また、職場で不動産投資が儲かっていること話して、自慢のように受け取られると、やっかみから人間関係が上手くいかなくなり、職務に支障をきたすことも考えられます。不動産投資の話はなるべくしないように心掛けて、同僚などに聞かれることがあっても、質問されたことに答える程度にとどめた方が賢明です。特に飲み会の席では、お酒が入ると気が大きくなって、不動産投資のことをベラベラと話してしまいがちですので、節度を持ってお酒を楽しむように注意しましょう。
許可を得られれば考え方は民間企業と同じ
とはいえ、事業的規模の不動産投資であっても、許可が得られれば、公務員が不動産投資を行うことは特別なことではありません。公務員は法律、民間企業は就業規則の規定によるという違いはあるものの、民間企業で働く会社員も就業規則で、信用失墜行為の禁止や職務上知った秘密の守秘義務、職務専念の義務などが定められていることが多いです。民間企業で働く会社員が不動産投資を行うのと、実質的に大きな違いはないのです。
また、株式投資やFXといった投資手段にもリスクがあり、担当する職務によっては、公務員は職務上知り得た秘密との兼ね合いが、インサイダー取引などの問題になることがあります。公務員としてのルールを守って投資することも、ほかの投資手段と同じことです。
公務員が許可を得ないで不動産投資をするリスク
公務員の中には、副業の許可が必要なケースの不動産投資にも関わらず、許可を得ずに行ったことが発覚して懲戒処分の対象になるケースがみられます。しかし、無許可の公務員の副業が知られることには高いリスクがあります。
確定申告で「普通徴収」にすれば大丈夫?
不動産投資を行っていると、不動産収入があるため、確定申告をする義務があります。確定申告の際に給与所得以外の所得に対する住民税の支払い方法で普通徴収を選べば、副業がばれないといわれることがありますが、はたしてそうでしょうか。
住民税は前年の所得をもとに翌年に支払う方法がとられ、住民税の支払い方法には特別徴収と普通徴収があります。特別徴収は給与から毎月天引きされ、勤務先から都道府県や市区町村に支払うものです。普通徴収の場合は送付される納付書を使って、年4回に分けて自分で役所や金融機関の窓口で支払います。特別徴収でも普通徴収でも、住民税として徴収される額には違いはありません。公務員や会社員は、原則として給与から天引きされる特別徴収で、住民税を支払います。正社員に限らず、パートやアルバイトも、前年の所得によって住民税の支払いが発生していれば、特別徴収の対象です。
住民税は総所得に対して課税されますので、副業をしている場合、住民税の支払額が本業の給与収入だけの場合よりも増えます。そのため、副業をしていると、公務員としての給与に対する特別徴収額との差異で、副業が疑われることになってしまうのです。そこで、確定申告の際に、給与所得や年金収入以外の所得に対する住民税の支払い方法は普通領収を選ぶと、公務員として給与は特別徴収のまま、不動産所得分の住民税は自分で別に払うことができます。
しかし、確定申告の際に普通徴収を選べば、必ずしも不動産投資がばれないとは言い切れません。住民税の面からは、市区町村の職員が誤って特別徴収にしてしまうケースもあるといわれています。
また、不動産所得が大幅にマイナスになった結果、副業が疑われるケースもあります。不動産所得は賃料収入から、減価償却費のほか、支払利息やリフォーム費用、賃貸管理手数料などの必要経費を控除することが可能です。物件を購入したばかりの時期や、大規模なリフォームをした年などは、不動産所得がマイナスになることがあります。不動産所得や事業所得などは損益通算が可能ですので、不動産所得のマイナス分が給与所得から控除されて住民税が計算されると、住民税の特別徴収額が減ります。すると、不動産所得のマイナスが大きいケースでは、公務員としての給与に対する住民税額との差異から、不動産所得、あるいは、事業所得があることが疑われるのです。
このほかには、児童手当の申請によって課税証明書から、公務員としての給与所得との税額の差異から、副業が判明するケースもあります。
事業的規模の不動産投資は懲戒処分の対象
許可が必要な不動産投資の規模は、無許可で行っていたことが知られた場合、懲戒処分の対象になります。国家公務員は、不動産賃貸業を「5棟10室以上」、あるいは、「年間の賃料収入500万円以上」の事業的な規模で営んでいる場合は懲戒処分の対象です。地方公務員は自治体によって、懲戒処分の対象になる基準は異なります。事業規模に関わらず、不動産賃貸業を営むこと自体に許可が必要な自治体では、親から相続した貸家一軒の賃貸経営であっても、懲戒処分が下される可能性があります。
国家公務員の場合は、人事院の指針では、「兼業の承認等を得る手続のけ怠」の懲戒処分は、減給または戒告です。しかし、これは標準的なものですので、職責やほかの職員への影響、動機や違法行為の度合いによって、個別の事案で重くなることもあります。
地方公務員の事例になりますが、佐賀新聞の報道によると、2016年に佐賀広域消防局の消防副士長が、マンション4棟と駐車場3か所など15物件を所有し、年間の家賃収入7000万円を得ていたことが発覚したケースでは、3か月間10分の1の減給処分が下されました。その後、「5棟10室駐車場10台未満」で「年間の賃料収入500万円未満」へ縮小を求める改善命令に従わなかったため、懲戒免職処分になっています。
http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/270178
http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/350930
懲戒処分は社会的な影響も大きい
民間企業で働く会社員が、副業の就業規則違反で懲戒処分を受けてもニュースになることはほとんどありませんが、公務員の場合は副業が発覚すると報道されることがあります。そのため、職場でのいづらさや一般市民からの批判の目を気にして、懲戒免職にはならなくても、自己都合退職するケースもみられます。しかし、副業をしていて懲戒処分を受けたことが知られていると、新しい仕事を探しにくいことが懸念されます。また、近所の人にも、副業で懲戒処分を受けたことが知られると、家族の生活にも影響を及ぼすかもしれません。
公務員が副業で懲戒処分を受けると、減給などの処分が下されるだけではなく、社会的な制裁を受ける可能性もあります。許可が必要な規模で不動産投資を行う場合には、必ず申請を行うようにしましょう。
家族名義なら不動産投資の許可は不要
公務員が事業的な規模で不動産投資を行いたい場合、申請して許可が得られれば問題なくできますが、上司などに知られたくない人もいるでしょう。そのような場合、家族名義で不動産投資をすることが考えられますが、できるものなのでしょうか。
家族名義の不動産投資なら許可は不要
家族名義で所有する物件の不動産投資は、事業規模に関わらず、副業の許可は不要です。ただし、家族名義であっても、公務員本人が実質的に不動産賃貸業を担っている場合は、国家公務員の基準で「5棟10室」、または、「年間の賃料収入500万円」を超える場合は、副業の許可が必要なことは変わりません。人事院規則では、名義が他人であっても実質的に公務員本人が営んでいる場合も、副業禁止の規定に抵触することが規定されています。
家族名義の不動産投資は融資が問題に
家族名義の場合、購入資金の調達方法も問題となります。公務員本人名義の預金から家族へ、投資物件の購入資金を贈与する場合は、贈与額が1年間に110万円を超えると、贈与税が課されます。家族に対して購入資金の貸し付けを行う場合も、返済可能な範囲内でなければ、贈与とみなされます。
金融機関から融資を受けて不動産投資を行うケースが多いですが、たとえば、配偶者が働いていない場合には、融資を受けることが難しいです。また、配偶者が会社員の場合でも、公務員の属性を活かして借り入れをすることはできません。公務員は安定した収入が得られるため属性が高く、同じ賃金水準の上場企業の会社員よりも融資が受けやすいとされています。公務員の家族による不動産投資では、公務員本人が保証人になったとしても、属性を活かして融資を受けることは難しいでしょう。
家族名義での法人化の注意点とは
家族名義での不動産投資には、法人化という方法もあります。公務員が法人の代表者や役員になると副業禁止の規定に抵触しますので、配偶者などの家族を株式会社の代表取締役にし、公務員本人が100%出資するやり方です。収入のない配偶者を法人の代表取締役などの役員にして、役員報酬を支払うと、基礎控除と給与所得控除で103万円までは無税にできることがメリットです。
金融機関から融資が受けられるかが問題になりますが、実績のない法人でも公務員本人が株主になることで、購入する物件の担保価値によっては、融資を受けられることがあります。ただし、法人が融資を受ける場合は、一般的な投資用のアパートローンなどではなく、個別のプロパーローンになりますので、審査期間は長くなりやすいです。また、家族名義で法人化をした場合も、公務員本人が関わる場合には副業禁止に抵触する恐れがあること、また、公務員本人が報酬を得ないことなどに注意が必要です。